企業のハラスメント対策について

 職場におけるハラスメントの行為の内容によっては、暴行罪・脅迫罪・侮辱罪などに問われます。もちろんそれは刑事上の責任や、民事上の損害賠償責任へと発展していきます。

 また職場内への影響は深刻です。ハラスメントを行った人は、会社内で信頼・信用を失いかねません。またパワハラを受けた人も自身の心身に傷を負いかねず、さらには社内で居場所さえなくなりかねません。

 会社としても懲戒などの処分を行う事にもなり、訴訟なども起こされかねません。

 こういった問題から生じる企業の逸失利益は多大なものになることは想像に難くないでしょう。

 会社と従業員、また従業員同士でも「ハラスメントはいけないこと」と相互に認識をもつことが大切であり、パワハラを起こさせない企業風土の構築が、まさしくこれからの企業の発展に必要不可欠なものとなるでしょう。

 ここでは、ハラスメントの類型とそれぞれの定義を確認し、さらには企業としてどのような対策が求められているかを見てまいります。

職場におけるハラスメントとは?

 ハラスメントとは言葉や態度、行動により、相手に不快感を与えたり、相手の尊厳を気づけたりするものをいいます。

 「職場におけるパワーハラスメント」を例にすると、その定義は

①優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるものであり、①から③までの3つの要素をすべて満たすもの、とされています。

 その他、労働環境における「職場におけるハラスメント」というと、おおよそ以下のものがハラスメントと言われています。

パワーハラスメント優越的な関係を背景とした言動など
セクシャルハラスメント性的な言動など
マタニティ―ハラスメント女性の妊娠・出産・育児等に関する言動など
パタニティーハラスメント男性の育児等に関する言動など
ケアハラスメント介護休職等に関する言動など
モラルハラスメント人格や尊厳を傷つける言動など

 これらは、男女雇用機会均等法、育児・介護休業法、労働施策総合推進法によって、たとえば「・・・適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなかればならない」(男女雇用機会均等法第11条の3)と規定されるなど、一定の措置を事業主に課しています。

 また、上記のハラスメント以外にも、

SOGI(ソジ)ハラスメント性的指向や性自認に関連した、差別的な言動など
カスタマーハラスメント顧客、取引先、消費者からの過度の嫌がらせ、クレームなど
就活ハラスメントOB・OG訪問の際などの就職活動中の学生に対して行われる不法行為
その他スモークハラ(たばこの煙)、スメルハラ(匂い)など

のように、ハラスメント解釈は徐々に広がっていく傾向にあります。

 一見すると、一企業で雇用管理上の措置をとるのは難しいと感じられるかもしれませんが、これらによって就業環境が害された場合、企業は民事的な責任(不法行為や債務不履行)を負う羽目になりかねません。

企業に求められる措置とは

 労働施策総合推進法に基づく「パワーハラスメント防止措置」を例にすると、以下のようになります。

1.事業主の方針等の明確化および周知・啓発
①職場におけるパワハラの内容・パワハラを行ってはならない旨の方針を明確化し、労働者に周知・啓発すること
②行為者について、厳正に対処する旨の方針・対処の内容を就業規則等文書に規定し、労働者に周知・啓発すること
2.相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
③ 相談窓口をあらかじめ定め、労働者に周知すること
④ 相談窓口担当者が、相談内容や状況に応じ、適切に対応できるようにすること
3.職場におけるパワハラに関する事後の迅速かつ適切な対応
⑤ 事実関係を迅速かつ正確に確認すること
⑥ 速やかに被害者に対する配慮のための措置を適正に行うこと
⑦ 事実関係の確認後、行為者に対する措置を適正に行うこと
⑧ 再発防止に向けた措置を講ずること(事実確認ができなかった場合も含む)
4.併せて講ずべき措置
⑨ 相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、その旨労働者に周知すること
⑩ 相談したこと等を理由として、解雇その他不利益取り扱いをされない旨を定め、労働者に周知・啓発すること

 さらには、これらを踏まえて、厚生労働省としても「望ましい取り組み」として以下のように明示しています。

1.パワーハラスメント、セクシュアルハラスメント、妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントは、単独ではなく複合的に生じることも想定し、一元的に相談に応じることのできる体制を整備すること
2.職場におけるパワーハラスメントの原因や背景となる要因を解消するための取り組みを行うこと
(コミュニケーションの活性化のための研修や適正な業務目標の設定等)
3.職場におけるパワーハラスメントを行ってはならない旨の方針を行う際に、自ら雇用する労働者以外に、以下の対象者に対しても同様の方針を併せて示すこと
・他の事業主が雇用する労働者 ・就職活動中の学生等の求職者
・労働者以外の者
 (個人事業主などのフリーランス、インターンシップを行う者、教育実習生等)
4.カスタマーハラスメントに関し以下の取り組みを行うこと
・相談体制の整備
・被害者への配慮のための取り組み
 (メンタルヘルス不調への相談対応、行為者に対して1人で対応させない等)
・被害防止のための取り組み
 (マニュアルの作成や研修の実施等)

 これを見ると、パワハラだけでなくセクハラ、マタハラ、就活ハラやカスハラにまで幅を広げて対応をとるのが望ましいことがわかります。必ずしもこのようにしなければならないという事ではありませんが、個々の「ハラスメント」を個別に捉えるのではなく、総合的・複合的に捉えることが望ましいといえるでしょう。