「2024年問題対策」

1.2024年問題とは

 2024年4月1日に労働時間の上限規制の適用猶予が与えられていた「自動車運転の業務」「建設業」「医師」についても、労働時間の上限が適用されていきます。

最も影響が大きいと考えられるのが運送業界です。

ドライバーにも時間外労働の上限が適用され、特別条項付き36協定を締結した場合でも、上限が年間960時間までとなります。適用後はたとえ人手不足だとしても、上限を超えてドライバーを働かせることはできません。

違反した事業者は「6か⽉以下の懲役または30万円以下の罰⾦」を科される可能性があります。もしも、利益優先で時間外労働の上限規制を破ってしまった場合、かえって大きな損害を招くリスクがあります

ただし、この「960時間」という数字だけが問題なわけではありません。

2.「働き方改革」と「改善基準告示」の見直し

「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」が平成30年7月に公布され、翌年(平成31年)の4月1日から施行されました。その際に、衆議院では「自動車運転業務については、過労死等の防止の観点から、『自動車運転者の労働時間等の改善のための基準』の総拘束時間等の改善について、関係省庁と連携し、速やかに検討を開始すること。」という付帯決議(H30.6.28)が採られ、参議院でも「特に、自動車運転業務については、長時間労働の実態があることに留意し、改正法施行後5年後の特例適用までの間、過労死の発生を防止する観点から改善基準告示の見直しを行うなど必要な施策の検討を進める」という付帯決議(H30.5.25)が採られました。

その後、この改善基準告示の内容について見直しの検討がなされ、令和4年9月8日に開催された厚生労働省の審議会の会合「第10回トラック作業部会」にておおよその方向性が決まりました。

「運送業における2024年問題」というのは「年960時間」という上限規制ということだけでなく、実はここに書かれる「改善基準告示」の見直しによる影響も指します。

3.「改善基準告示」とは

運送業界においてコンプライアンスを図る場合、運転ドライバーは「労働基準法」を遵守するだけでなく、「改善基準告示」という大臣告示に定められている基準も守らなければなりません。その基準は、古くは昭和42年2月9日の通達に基準が示された事に始まり、平成元年2月9日に改善基準告示が制定されましたが、現在は平成9年改正(4月1日発行)の基準が適用されています。

現在の改善基準告示の内容

 平成9年改正(労働省告示第4号)
発行日平成9年4月1日
拘束時間〇1カ月293時間 (年3,516時間の範囲内で6カ月320時間まで延長可能) 〇1日13時間 (最大16時間まで延長可能。ただし15時間超は週に2回迄)
休息時間勤務終了後、連続した8時間以上
運転時間〇2日平均1日9時間 〇2週間平均1週間44時間
連続運転時間〇4時間 〇運転の中断 合計30分以上(1回連続10分以上)
時間外労働一定期間は2週間及び1カ月以上3か月以内の期間を協定
休日労働2週間に1回を超えない、かつ、1年・1カ月・1日の拘束時間の範囲内
特例分割休息、2人乗務、隔日勤務及びフェリー乗船における特例は労働基準局長通達の定めによる

第10回労働政策審議会労働条件分科会自動車運転者労働時間等専門委員会

トラック作業部会『参考資料2改善基準の見直しについて(参考資料)』p33より転記

この改善基準告示に示される数字が見直されるわけですが、見直される予定の数字を見る前に、先に現在の改善基準告示の数字と労働基準法との関係を見たいと思います。というのもこの確認作業を行っておかないと2024年問題の本質が見えないためです。

4.労働基準法と「改善基準告示」の関係

労働基準法に示される1日の法定労働時間8時間(休憩1時間)とした場合、改善基準告示に当てはめると、1日の拘束時間が9時間となります。

1日8時間・週40時間から1年間の労働日数を365日―105日とすると、年260日となり、年間の総拘束時間は9時間×260日=年の拘束時間2,340時間となります。

さらに、月に割り戻すと年2,340時間÷12カ月=月の拘束時間195時間となります。

1日8時間労働+1時間休憩(9時間拘束)かつ週40時間労働(5日勤務)の場合

※法定内の拘束時間

 法定内の拘束時間
1日の拘束時間9時間
月の拘束時間195時間
年の拘束時間2,340時間

さらに、改善基準告示に示される基準を併記します。

 法定内の拘束時間改善基準告示
1日の拘束時間9時間原則13時間 特例16時間
月の拘束時間195時間原則293時間 特例320時間
年の拘束時間2,340時間3,516時間

つまり現行では「自動車の運転の業務」は上限規制の適用外ですが、実質は改善基準告示とこの法定労働時間から試算した拘束時間の差が、時間外労働の上限と捉えることもできます。

では、次にその改善基準告示とこの法定労働時間から試算した拘束時間の差をみます。

 法定内の拘束時間改善基準告示時間外労働が 可能な時間
1日の拘束時間9時間原則13時間 特例16時間原則4時間 特例7時間
月の拘束時間195時間原則293時間 特例320時間原則98時間 特例125時間 (含・休日労働)
年の拘束時間2,340時間3,516時間1,176時間 (含・休日労働)

第10回労働政策審議会労働条件分科会自動車運転者労働時間等専門委員会

トラック作業部会『参考資料2改善基準の見直しについて(参考資料)』p16参照

2024年問題の一つである年間の時間外労働の上限年960時間がどこに当てはまるかというと、現行の時間外同労が可能な時間1,176時間/年が960時間/年に置き換わります。すなわち216時間(月平均18時間)の短くなると試算されます。

もちろん、休憩時間や所定労働時間の長短、歴の巡りあわせなどにより上記の数字は異なってきますが、厚生労働省が示す仮定のモデルとして認識して頂ければと思います。

5.建設事業

上限規制が全て適用(災害の復旧・復興の事業を除く)され、時間外労働の上限は原則として月45時間・年360時間となります。また臨時的な特別の事情があって労使が合意する場合でも以下の事が守られるように義務付けられています。

・時間外労働が年720時間以内

・時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満

・時間外労働と休日労働の合計について、「2か月平均」「3か月平均」「4か月平均」「5か月平均」「6か月平均」が全て1月当たり80時間以内

・時間外労働が月45時間を超えることができるのは、年6か月が限度

ただし、災害の復旧・復興の事業に関しては、時間外労働と休日労働の合計について、月100時間未満、2~6か月平均80時間以内とする規制は適用されません。

6.医師

 具体的な上限は、今後省令で定めるとされています。ちなみに2021年7月19日に行われた第169回労働条件分科会では、診療従事勤務医について「年960時間/月100時間未満(例外あり)※いずれも休日労働含む」とし、緊急性の高い医療機関などは「年1,860時間/月100時間未満(例外あり)※いずれも休日労働含む」にて検討が進められています。

7.「2024年問題」対策

 2024年問題は、罰則規定もあることから、特に運送業界・物流業界に大きな影響を与えますが、その対応策は必ずしも簡単ではありません。

 その会社の実態に合わせて、いつまでに、どのように対応するのか、スケジュールを立てて対応することが基本であり、その対策内容はオーダーメイドとなります。

2024年(令和6年)4月に間に合わせるためにも、早めにご相談されることをお勧めします。

レジリエンス社会保険労務士法人では、初回ご相談は無料で、全国対応いたしますので、ぜひご活用ください。

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